· 

病院・家でむかえる死

 

新型コロナ感染症で色々なことが制限された生活になり、2年目の秋ですね。

  

今は感染が一時おさまり、行動制限も緩んできていますが…

 

数か月前までは医療機関がひっ迫して、入院できない1人暮らしの方が在宅療養中に自宅で亡くなられたというケースも…

 

医療機関に入院できていれば、救えた命だったのかもしれませんし、そうではなかったのかもしれません

 

とてもデリケートなテーマだと思います。

 

日本は何かあったら病院で治療・病院で最後の日をむかえるという方が多いと思います。

 

なので、自宅で1人で亡くなっていたというニュースを見ると、心がザワザワするかたも多いのでは…

 

今日は『病院でむかえる死』『家でむかえる死』について考えていきたいと思います

 

  

昔、家という制度があった頃は、食事や仕事、死を迎えることも含め、生活の全ては家で行われてました

 

なので家族が死にゆく姿を通して、老いや死というものを肌で感じ、心も徐々に受け入れていく…そういう機会がありました

 

時代が変わり、核家族化や、医療の発達・制度の充実の影響で、死を迎える場所も、家から病院・施設でという方が多い現状です

 

もちろん、在宅診療や在宅看護介護も普及してきた今、ご自宅で…という選択をする方もいらっしゃいます

 

でも昔に比べると、日常の中で老いや死を肌で感じ、死を当たり前のこととして、徐々に受け入れていく機会は減っています

 

   

文化人類学者である波平恵美子氏は、病院という医療文化の変化も、死生観の変化に大きく影響していると言われています

  

著書の『いのちの文化人類学』の中で、生命論には

 

①「生命論には個別の個体にとじこめられている唯一無二の生命観」

 

②「個体の枠を超えて、他の個体と無限に関連している開かれた連続する生命観

 

があるとし「現代医学はその根本的理論枠組みを閉じられた生命論に置いているといってよい」と述べています

 

②の連続する生命観は、過去のブログの『死って何?』日本人の死生観から考えるで綴った自然やご先祖など、自己を超越した存在と繋がる死生観のことのように感じます

 

確かに、多くの医療機関では、波平氏のいう『個体に閉じ込められた唯一無二の生命観』がベースにあるかもしれません

 

一般的に言われる死は、二度と生き返ることはありません

 

だからこそ患者さん・ご家族は、一つの尊い命を助けてほしいと望み、医療者も最善を尽くし治療にあたります

 

同時に、救えなかった時は、とても無力感を感じ、もっと何かできたのでは?と自分を責めたり…

 

波平氏は、『医療機関での死は敗北なのである』とも表現しています

 

私もかつて看護師として働いていた時のころを思い出し、そういう価値観があったと思います

 

これは、決して医療従事者が、波平氏のいう『開かれた連続する生命観』を持っていないということではないと思います

 

むしろ、理論や科学では説明できないような目に見えない繋がりを、人の命を通して感じることもあります…

 

ホスピスのように緩和ケアを取り入れている病院では、死を前に感じる心・体・社会的な苦痛も和らげようと寄り添い、その方にとっての人生や死の意味を一緒に感じてくれる場所もあります

 

しかし、一般的に医療に求められている命を救うことが出来なかった時は…

 

唯一無二のその方の命を救うことができなかったという事実が、突きつけられるのではないでしょうか…

 

どのような死生観を持っていても、この世での別れを体験するのは、淋しいですし、心も揺さぶられます…

 

死をむかえるまでの治療過程、関わる人の立場・環境・経験などによって、感じ方は人の数だけあり、比べられるものでもありません…

 

今は病院で死を迎えることが多い世の中でですが、これからは施設や自宅でのお看取りも少しずつ増えていくと思われます。

 

唯一無二の生命観は、現代の私たちにとって馴染んでいる生命観だと思いますが、個体の枠を超えた連続する生命観を普段から意識することが、どの場所で最後を迎えることになっても、死を受け入れることの助けになると感じています

 

そして、普段からそのような思いを安心して語れる場が、病院内や地域にあったらいいなと思います

 

 

今はまだコロナ渦の影響で、人と集まって語る場というのは作りずらいですが…

 

少人数から、できる形でそういう機会を作れたらいいな…。

 

『ハローウイン』や『メキシコの死者の日』が近づいてきたので、久しぶりに死生観のテーマを取り上げてみました

 

コメント: 0 (ディスカッションは終了しました。)
    まだコメントはありません。